SFと就活本
2014-11-26


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11月の終わるのも早い。あっという間に秋が過ぎ去る。わがマンションの庭の紅葉も余り色づかぬうちに散ろうとしている。隣のNTTの森の紅葉はこれからというところだ。月曜に、学生を連れて赤坂の日枝神社に行って来た。日枝神社は、もともと、比叡山の土地神を祭る日吉神社を勧請したものだが、日枝という言い方は、比叡のヒエからとか日吉神社の日吉がヒエと読むと言う説もある。日吉神社は猿を神の使いとしていることから、日枝神社も狛犬の代わりに猿の象が鎮座している。

 さすがにお金持ちの神社である。神社の建物は立派だし、社殿に上る階段の横にエスカレーターが動いている。江戸時代は江戸城の鎮守の神社だったが、江戸城が皇居になってからは皇室の鎮守ということらしい。ブックオフに日枝神社のビデオが300円で売っていたので早速購入して見てみたところ、石原都知事が氏子総代として奉納していた。

 さて、読書の感想の続きだが、アンディ・ウィアー『火星の人』はお薦め。いわゆる近未来のハードSFである。火星への有人飛行ミッションが失敗し、クルーは一人を残して火星を脱出する。取り残された隊員は絶体絶命の状況で、火星に残された機材を何とか使いこなして、地球と連絡をとり、救出隊がくるまで火星で生き延びようとする。つまり、火星版ロビンソンクルーソーということになろか。文体が、なかなか良い。村上春樹風に「やれやれ」といいながら、危機を克服していく。どんな極限状況にあってもユーモアを外さない精神は見事である。村上春樹の訳すレイモンドチャンドラーの描く探偵が、殴られようと銃を向けられようと、ウィットなしの台詞を決して吐かないのとそれは同じである。追いつめられ極限の状況にあって、「やれやれ」と冗談の一つでもいいながら、というように振る舞いたいものである。どうせどうしようもないなら、その方が良いに決まっている。ひょっとして奇跡は、泣き叫んだり落ち込んでいるより起こる確率は高いかも知れない。

 テリー・ヘイズ『ピルグリム』1〜3は、読んだらやめられないというキャッチフレーズに、ほんとかなと思いつつ読んで見たが、まあまあ最後まで飽きることなく読み終えた。さすがに『ミレニアム』ほどではない。全六冊の長さを一気に読ませる面白さという点で、『ミレニアム』が最近読んだミステリでは最高である。『ピルグリム』の面白さは、イスラムのテロリストが、典型的な悪役ではなく、テロリストになった背景や、その人間性も含めて丁寧に描かれているところだ。ほんとのテロリストはこんなに甘くはないぞとつっこみを入れたくなるところもあるが、欧米諸国の願望も入っているのだと思う。ネタバレになるので結末は言わないが、最後は、信念ではなく愛が勝つのだ。

 古市憲寿『働き方は自分で決める』(講談社文庫)は、学生向けの就活本として使えないか読んでみたが使えないことがわかった。社会学者として知られるようになった著者が交流した成功起業家たちの物語と言えばよいか。その成功の鍵は「自由」を活用しているということだ。つまり、日本には他の国と比較するとかなりの自由がある。日本人はその恩恵がわかっていない。それなのに旧来のシステムに縛られながら職業を選択しあるいは起業をしようとする。もっと自由に何でもできるはずで、その自由を活用し、コミュニケーション力やアイデア力で、それほどの資本もなしに起業をやり遂げたものたちの成功の物語、ということになる。それだけだと、結局うまくやった人間力の高いものたちの成功譚でつまらないのだが、さすがに社会学者らしく、日本で若者が上手く生きていくには、日本が他国(特に発展途上国)にはない自由を含めた様々な特権をもっと利用すべきだと言っているところだろう。この「自由」は高度成長期に作られた財産で、やがて亡くなるかも知れないがまだ残っている。それを有効利用して、生きる道を探そうということがこの本で説く若者の処世術ということになる。


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